ASKA | NEW ALBUM BOOKEND 2011.12.7 RELEASE!

ASKA 『BOOKEND』

POCS-22018 ¥2,800 (tax-in)

【収録曲】

ASKAにはそんなルーツもあるんだと,そう知ったのは今から10年以上前である。ともかくチャゲアスや彼のソロが次にどこへ向かうかに集中しがちの頃だった。ふと一人の音楽好きに戻ったASKAは,「ナット・キング・コールが歌うスタンダード・ナンバーが,いかに素晴らしいか」を話してくれたのだ。ただその頃は,具体的にどうとかってことではなかった。

やがて想いは具現化される。5曲入りミニ・アルバム『STANDARD』がリリースされたのだ。「Stardust」を真正面から取り上げ,堂々と歌った。この作品は11月末というリリース時期もあり,クリスマス・アルバムとしても聴ける内容であり,それに続くコンサート,「昭和が見ていたクリスマス」への大きな助走にもなったのだ。ステージの彼は堂々たるものだった。人によっては歌う前から物怖じしてしまうような楽曲も,持ち前の歌唱能力で歌い切った。

「やるなら堂々と,というのはあったかな。でも僕の場合,オリジナルだろうと他人の作品だろうと,こだわりはないんです。いずれにしろ,“自分が歌ったんだ” って記録は残っていくわけだから。そもそも88年の最初のソロの『SCENE』の時,“蘇州夜曲” をやってるのでね。その後もソロではジュリーを歌ったりとかしてるし,当時からぜんぜん抵抗はなかったんですよ」

そして『STANDARD』から2年。遂に『BOOKEND』が完成する。前回の続編に思われたが,少し事情が違うようだ…。

「実はあの2年前の段階では,今回の構想はなかったんです。あれを出した後で,“フル・アルバムにしたいな” という想いから生まれた。なので『STANDARD』の5曲,さらに今回の7曲を含め,そのすべてをライブラリーとして “ブックエンド” のなかに収めて行けたらということで,このアルバム・タイトルも生まれたんです。レコーディングが終わってみての満足度は大きい。クリスマスのアルバムを一枚作れたということはね。ただ,既に『STANDARD』を手にしてくれた人達がいるわけでね。そうした人達にも嫌な想いさせないための努力は,可能な限りしたつもりではあるんですよ」

さっそく聴き始めることにしよう。その前に,まず全体のコンセプトを…。やはりこの時期,外せないのはやはりクリスマス?

「確かに “それらしい” アルバムではあると思う。でもそこに限定してるわけでもない。でもこの時期に聴けて,そんな気持ちになってしまう楽曲を選んでみた,“ぽい” アルバムというところかな?

そもそも1曲目の “Love Is A Many-Splendored Thing” とか,クリスマスとは一切関係ない歌だしね(笑)」

当時日本でも大ヒットした映画『慕情』のテーマ・ソングである。確かに歌詞に出てくのは “4月の薔薇”…。ここではASKAのよき盟友,澤近泰輔がハーモニーを手伝い,アカペラに仕上げられている。アンディ・ウィリアムスの歌でも有名だが,オリジナルはフォー・エイセスというボーカル・グループなので,それに近いコンセプトのカバーとも言えるかもしれない。

「普通,いきなり “慕情” はやらないのかもしれないけどさ(笑)。でも自分が歌いたいから歌ってみました,ということも大切でね。ぜひ聴いてみて,ではなくてね。やれてよかったです。長年の憧れの楽曲だったし」

そのあとはクリスマスにまつわるスタンダードが並ぶ。

「Have Yourself A Merry Little Christmas」は,ミュージカル映画『若草の頃』のなかでジュディ・ガーランドが歌った作品。フランク・シナトラのレパートリーとしても知られる。ASKAは男の哀愁も含め歌っている。さらに『STANDARD』のなかでも白眉であった,チャップリンの映画『モダン・タイムス』から広まった「Smile」。ひとつひとつの言葉が深く響く。そして「Let It Snow! Let It Snow! Let It Snow!」。ビング・クロスビーでお馴染みのこのナンバーは,このまま雪が降り積ることをむしろ願う,別れを惜しむ恋人たちの姿を描いた粋な歌だ。クリスマスとは特に関係ないが,軽快な曲調に大人っぽい歌詞をのせた冬の定番ソングである。

クリスマスがすべての人々に幸せを届ける様を俯瞰で描く「The Christmas Song」は,ジャズ・シンガー,メル・トーメがオリジナル。滲むエレピの音が効果的。そしてその世界観を引き継ぐかのように「世界にMerry X'mas」が続き,こちらはCHAGE and ASKAの作品から満を持してのセルフカバーだった(どちらも『STANDARD』で発表されたもの)。異色といっては言い過ぎかもしれないが,次にビリー・ジョエルの「My Life」も取り上げられている。

「この曲をやろうというのはすぐ決まった。さっきも言ったけど,自分が歌ったらそこにどんな意味が生まれるかということよりも,“これ,歌いたい” って直感の気持ちを優先してたし,この選曲はすぐ決まった。でもこういう楽曲も,アルバムを構成する上ではいいアクセントになるし必要だったのでね」。

興味深い仕上がりだ。ニューヨークの街を描く詩人ともいえるジョエルが,ブリーカー・ストリートあたりのジャズ・クラブに迷い込んだかのような仕上がりである。ASKAの歌も実に抑揚が効いてる。そして次はこのアルバムで唯一,今回のために書き下ろされたオリジナルの「思い出すなら」。ファンの人達にとって,待ってましたの一曲となるだろう。

「スタンダードを歌ったアルバムに自分の新曲を入れるっていうのもおこがましいんだけどね。でも入れないと,次の活動への方向性が見えてこないので,敢えて入れさせてもらったんですよ」

具体的な思い出にまつわる歌ではない,というとこがミソ。

「生きていれば,“あの時,だれだれに悪いことしたな” とか,つい引け目を感じてしまうことも多い。思い出そうにも,自分でブレーキを掛けてしまうっていうかさ。だけど,それも自分が生きてきた軌跡,それも含めての人生だと思うんだ。だからたまに思いだそうとするけど,もしそうだとしたら,“こんな気分の時がいい” というのがテーマなんです。実はいままで,こういう歌は書いて来なかった。何かをきっかけ思いだすというのはあっても,自分から思い出そうとする,というのはね」

そしてスタンダード・ナンバーというと誰もが最初に思いだす一曲かもしれない「Stardust」が次に。これも『STANDARD』からの一曲だ。古いラジオから聞こえてきたかのような音声処理の冒頭も雰囲気満点だ。注目すべきは,この曲に限らず,ASKAは原曲の良さを忠実に伝えようとしていることだ。

「アーティストによって表現の仕方も違うと思うんですよ。敢えてロックにしてみました,みたいなのもあるしね。それが本人の楽しみだったら別にいい。でも僕はスタンダードって,ちゃんと歌い継がれていくものだと思ってるから,自分からコード進行とかアレンジをガラリと変えるつもりはなかった。でもそう言うと,“だったら昔の,オリジナルを聞けばいいじゃない?” ってなるんだけどさ(笑)。でも今の人が今の楽器でやってるだけでも,そこにはちゃんと意味も生まれるから」

次は提供曲を『SCENEⅡ』でセルフ・カバーした「Please」。聖歌隊的な雰囲気もあった作品だが,2011年に聴くと,人間社会の驕りを戒めている歌にも思えてくる。アルバムのいいアクセントでもある。さらに「What A Wonderful World」。この曲はたびたびリバイバルしているが,有名な“あの人”の歌声が,ついつい聴こえてきそうな作品でもある。

「そう。あまりにもルイ・アームストロングのイメージが強くて,いろいろな人が歌うときにもやっぱそんな感じになってしまうんだよね。でも,そこはまさに匙加減ですよ」

ぜひ聴いてみて欲しい。すーっと素直に歌っているようにも思えるが,ちゃんとASKAの歌になっている。とはいえルイ・アームストロングへのリスペクトも垣間見れる,そんな絶妙な “匙加減”。ラストは『STANDARD』でもクロージング・ナンバーを務めた「Good Night」だ。ビートルズのナンバーだが,オリジナルもオーケストラによるもので,このアルバムで出会った12の物語が,ここで静かに眠りにつくかのような余韻を残す。

では最後に,このアルバムが次のASKAの活動へどんな意味を持つのかを訊いて終わることにしよう。

「今回,どれだけ消化して次に活かせるかはわからないけど,かならず何らかの形で反映されるでしょうね。これまでとは別の引き出しも開けてみたわけだし,次に書くメロディ・ラインにも,きっと刺激になると思う。でも人に愛されるスタンダードって,“なぜ愛されるのか?” っていう理由をふんだんに持ってるんだよね。もちろん歌った人の声の魅力に引っ張られてのこともあるんだろうけど,なるべくしてなった曲達なんですよ。自分の書いた歌がスタンダードとして残ったとしたら? そんなこと考えてないけど,でもその裏でちょっと,もしそうなれたら…,というのはあるのかな」

それでは再び「Love Is A Many-Splendored Thing」から聴いていくことにしよう。アカペラって,ほんと,なぜかクリスマスっぽい。冒頭に聞こえるのは息を吸い込むブレスの音。そもそもこのアルバムの主役は人間の温かい声。一人でも多くの人が,このアルバムを聴いて温かい気持ちになってくれたらなぁと,そう思う。

音楽評論家 小貫信昭

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